『「「大丈夫です。」という国 』

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第一回 「大丈夫です。」という国

コンビニのレジで、店員が言います。

「ポイントカードはお持ちですか?」

そのとき、多くの人が、こう答えます。

「大丈夫です。」

私はこの光景に、いつも少しだけ引っかかります。

持っていないなら、
「持っていません。」で良いはずです。

必要ないなら、
「いりません。」でいいはずです。

でも、多くの人は、
なぜか「大丈夫です。」と言うのです。

まるで、何かを断るというよりも、
場の空気をやわらかく包むための言葉のように。


ある日、会社で働く青年のもとに、実家から電話がかかってきます。

父親が倒れ、救急病院に運ばれたという知らせでした。

周囲の同僚たちは言います。

「早く帰った方がいい。」
「仕事はいいから、行ってあげなさい。」

そのとき彼が口にするのも、
やはり同じ言葉です。

「大丈夫です。」

本当は、何が大丈夫なのでしょうか。

父親の容体でしょうか。
仕事の進行でしょうか。
それとも、自分の気持ちでしょうか。


この言葉は、万能です。

心配されても「大丈夫です。」
誘われても「大丈夫です。」
提案されても「大丈夫です。」

軽い場面でも、重い場面でも、
同じ調子で使われます。

便利で、優しくて、角が立たない。

けれど、ときどき思うのです。

この「大丈夫です。」は、
本当に“状況”に向けて言っているのでしょうか。

それとも――
自分自身に向けて言っているのでしょうか。


もしかすると私たちは、

断っているのではなく、
自分を落ち着かせているのかもしれません。

「大丈夫。大丈夫。」

今日一日を、
無事にやり過ごすための、小さな呪文のように。

それが悪いとは思いません。

ただ、

本当に大丈夫ではないときまで、
この言葉だけで済ませてしまわないように。

そんなことを、ふと考えるのです。

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